2007年 12月 29日
イブの朝に-2 |
RICOH GR-Digital
11分署
窓から通り向いの新聞スタンドが見える。
昨日も今日も、何事も変わっちゃいない。
スチロールのカップに入った不味いコーヒーを飲みほし、頭は少しすっきりしたが文明というやつは何もかも不味くするらしい。
流行のネズミの漫画が書かれた子供向けのマグカップのほうがマシというものだ。
ネズミのマグカップの持ち主が写真の束を抱えて俺の前へやって来た。
ジョン、もう一度聴くがあの女とは一面識も無いんだな?
ああ、なぜだ。
コーディ警部は俺の前へまだ湿った写真を並べ始めた。
これはネガの順番通りだ。いいか、ジョン。
最初の3枚は32番街シティ銀行の前、男が二人写っている。
そして問題は4枚目から12枚目の写真だ。
コーディ警部が並べた写真の4枚目からは確かに問題があった。
殺された女が写っていた。
いや、殺された女がまだ生きていた時の写真と言い換えた方がいいのか。
ホテルのエントランスを駆け上がる女。
回転ドアーに吸い込まれる女。
後はパーティ会場らしき写真。
どの写真に写った彼女も魅力的だった。
何か言うことは有るかね?
最初の3枚は俺が撮った写真に間違いはない。
だが、女の写っている写真は俺が撮った物じゃないね。
どこの誰が何のために撮ったんだ?お前さんのカメラで?
答えは俺にも分からなかったが写真の腕はなかなかのものだった。
「いい写真だ。」
何か言ったか、ジョン?
「いい写真だ。」と言ったんだよ。
素人が撮ったものじゃないな。
どうして分かる?
最初の男が写った写真は俺が撮ったもので時間は昼間だ。
女が写っている写真は警部、何時ごろだと思う?
すっかり暗くなっちまっているから今時なら19時以降ってとこか。
こっちのパーティ会場の写真を見てみろよ。
この男の腕時計の針はどこを指している?
ボケて見難いが、8時5分ぐらいだな。
その前、30分前として19時半、1時間前だとしたら19時だ。
とにかく辺りは相当に暗くなっている時間だよな。
エントランスも明かりがあるといっても結構な暗さだ。
写真をよく見ろよ。と言って俺はコーディ警部に一枚の写真を投げた。
エントランスの階段を駆け上がる女の写真だ。
女の足はどのように写っている?
ブレてるな。
顔は?
それほどぶれちゃいない。
ピントはどうだ?
顔に合ってるように見えるが?
その通りさ。
バッチリ左目に合ってるぜ。
俺が使っているフィルムは最近発売されたばかりのコダック社のトライXといってASA200の高感度フィルムだ。それでもこの暗さだと絞りが開放でもシャッタースピードは1/16秒といったところだろう。だからこの状態でピントを外さず肝心なところをブラさないで撮れるやつというのはかなり撮り慣れた奴ということだよ。
俺なら多少写りが悪くなっても増感してシャッタースピードを稼いでいるシチュエイションだがこいつはノーマルで撮っていやがる。
ジョン、素人の俺にも分かるように説明しろよ。
それから俺は10分ほどコーディ警部に絞りとシャッタースピードの解説をした。
俺も一つ気が付いたことがあるのだがと言ってコーディ警部はパーティ会場が写された写真の一点に太い指を突き立てた。
お前さんが撮ったこの写真に写っている男の一人と同一人物のようだが、いったい誰なんだ?
確かに俺が撮った写真の車に片手を付いて写真でも高価とひと目で分かるスーツを着こなした男と同一人物のようだ。
「・・・」
探偵の守秘義務か?
ジョンよジョン、よく考えろよ。
犯人にされかけているのは他でもない、お前さん自身だぞ。
以下、続くかも(笑)
by leica-m8
| 2007-12-29 03:08
| colum